10年来の疑問に解決の兆しが見えました。
ずっと疑問に思っていたことがあります。
よく遮熱建材のパンフレットを見ていると
「体感温度への影響は輻射の割合〇〇%、対流の割合△△%」というようなことが
書かれています。
そもそも人体と部屋の温度のやりとりは伝導、対流、輻射(放射ともいう)
の3形態にわかれます。
それぞれをわかりやすく説明すると伝導は足の裏から直接床に奪われること。
対流は空気を通して熱が奪われること。
輻射は床、壁、天井のほうが温度が低い場合、体の表面から電磁波として熱が
奪われることを示しています。
しかし、今までこういったパンフレットに乗っている比率に対して論文等も読んだ
ことがなかった上、自分でも深く調べたことはありませんでした。
ふとしたことからこれが妙に気になり、環境系の教科書をひもとき、分からない箇所は
ネットで調べていく内に自分でその比率を計算する簡易プログラムを作ってしまいました。
また、省エネ建築診断士講習や講演等で発表しようと思いますが、
結論からいうと、パンフレットのように一概にパーセンテージを決めつけることは
不可能です。仮にそれを表示するのであれば、どういう条件にもとづいているのかを
きちんと書かなければなりません。
まず伝導です。これには皮膚の熱伝導率、床の熱伝導率、体温、床温度
足裏の面積という5つの変数が必要になります。
次に対流です。これには室温、体表面温度、風速という3つの変数が必要です。
最後に輻射です。これに必要なのは人の表面積(男平均1.69㎡、女平均1.51㎡だそうです)
体表面温度、周壁平均温度の3つの変数が必要です。
ここで、皮膚の熱伝導率、体温、体表面温度、人の表面積、足裏の面積は定数としたいと思います。
そうすると、本当に変数として残るのは
床の熱伝導率、床温度、室温、体表面温度、周壁平均温度、風速の6つの変数がわかれば、
伝導、対流、放射のそれぞれの影響による人体から熱が逃げる比率を計算することができます。
冬の暖房時において数十パターンにおいて計算してみましたが、
その結果は次世代レベル(Q値2.7)程度以上のレベルでエアコンで20℃を保っている場合と
して計算した場合、輻射の影響は対流の影響のほぼ倍、足の裏からの伝導による熱の逃げは輻射の
1/10程度と非常に小さいものであることが分かりました。
ただし、これはあくまで逃げる熱量の話であり、体感ではありません。皆さん知ってのとおり
床表面温度は体感温度に大きな影響を及ぼします。
ここまでは人体からの熱の逃げ(マイナス面)ばかりを見て来ましたが、ここで
着衣量と人体自身の発熱量(プラス面)も計算してみました。
そうやって計算した結果、Q値が1のように外皮性能が高く、エアコンの設定温度を
低くできている場合(室温22℃、周壁平均温21℃、体感温度21.5℃)
かなり良い感じで「逃げる熱量=発熱量」という熱的に平衡な状態になることが
分かって来ました。
非常にマニアックな話ですが、ここまでの計算プログラムを考えていく中で、
突き詰めれば突き詰めるほど宿谷先生のエクセルギーの表はよくできていると
痛感させられました。
この計算式を作るにあたり、人の表面積、人の表面温度、人の放射率(定数)
着衣量の数式化、人間の基礎代謝量(体脂肪計に出てくるやつです)
等さまざまなことを調べる必要がありました。インターネットが一般的で
なかった大学時代であればこの数式を組むのに卒論の1年がかかったと思います。
しかし、今であれば半日もあればこれが組めてしまいます。やはりインターネット
というのは確実に科学技術の進歩を加速させる効果がありますね。
また時間があるときに、この計算式をもっと煮詰めて一覧表にし、公開できれば
と思っております。