国が義務として定める基準は「最低基準」。
本来は、理想的な水準としての「民間基準」が存在する
ちなみに欧米の大半の国では国が義務として定める基準は「最低基準」というのが一般的だ。行政側が「義務化」できるのは最低賃金に似たようなもので「最低限度」であり、それ以上の「理想的な水準」を義務化することはどこの国とて難しいようである。
なので、どこの国にも「最低基準」として国の基準があり、理想的な水準としての「民間基準」が存在する。日本は「次世代省エネ基準」という悪しきネーミングのために、この「最低基準」であるという認識を持つ人が少なくなってしまったと考えている。構造の分野を見れば明らかであるが、耐震等級1というのが基準法ぎりぎり、理想的な水準である等級3はその1.5倍の耐震性が求められる。これと全く同じ図式だと思う。ちなみに6地域以外にも日本の全地域の基準も比較してみた(下図)。
この計算において日本の基準はそれぞれの地域の推奨仕様に基づいて定められたものだ。要するに寒冷地ほど断熱仕様が高くなっているという前提での基準数値である。ドイツやスイスの場合、立地の寒暖に関わらず、一次エネルギーにしても暖房負荷にしても一律で定められている。その結果、南の方の暖かい地域の断熱材は比較的薄くてもよく、逆に北部の寒冷地は強烈に分厚い断熱材が求められるということになる。
日本の場合、北に行くにつれて若干求められる仕様が厳しくなることは知っていると思う。しかしながら、その地域ごとの仕様を満たしたとしても同じ室内環境を維持する場合には北の方が大量にエネルギーを消費する基準であることがわかる。
もうひとつ日本の基準でどうしても不可解な点がある。それは部分間欠冷暖房のほうが基準値が甘く、全館冷暖房にすると基準が緩くなるということだ。車に例えるなら「軽自動車に乗る人は20km/L以上にしなければならないが、クラウンに乗る人は車が大きいので10km/L以上ならいい」と言っているのと同じようにしか解釈できない。実際、この仕組を悪用して、ゼロエネの補助金確保の際にはわざと全館冷暖房にして基準が緩い状態で補助金を獲得した業者がたくさんいた。
次回・・・日本の基準が必要とする「暖房負荷」を考える