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低炭素基準の暖房負荷はドイツパッシブハウス基準の5.7倍緩い。

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低炭素基準の暖房負荷はドイツパッシブハウス基準の5.7倍緩い。
本当はあまり良くないことなんですが、今月号の新建ハウジング「+1」(プラスワン)に
書いた記事を公開したいと思います。結構時間をかけて書いた記事です。
日・独・スイスの省エネ基準を諸条件を揃えた上で比較しています。
他にこういうことがなされた文献を見たことがないので、ぜひ参考にしていただければと
思います。
結論を先に言っておきますと、東京や大阪などの地域の場合、同じ土俵で比較したなら
ドイツパッシブハウス基準より低炭素基準ですら5.7倍緩いことがわかりました。
それとよく言われる「全館暖房はエネルギーを食う」というのも既に時代が変わっています。
低炭素基準の建物で「いるとき、いる時間だけ暖房する」よりパッシブハウス基準で
全館暖房しているほうが1/2~1/3の暖房エネルギーしか使わないのです。これほど厳しい
基準が2015年、新築建築物全般において義務化されます。
前置きが長くなりましたが、以下記事と同文です。
2013年中にドイツのパッシブハウス基準(民間の基準)相当の住宅と、スイスのミネルギー
Pエコ基準(民間の基準)の住宅が竣工しました。この2つが竣工したことで多方面から
「講演で紹介してほしい」という依頼がありました。これらを説明するにはまずそれら
の制度とその仕組を理解しなければ、意味をわかってもらうことができません。
まず、パッシブハウス基準ですが詳細は森みわさんの「世界基準のいい家を建てる」
にゆずるとしますが、現在世界最高峰と言われるドイツの民間基準です。2015年以降は
ドイツ国内で新築ではビル、住宅を問わず全建築物においてこのパッシブハウス基準が
義務化される予定ですが、現時点でも新築の10%を占めるまでになっています。
それに対して、スイスのミネルギー基準も民間の基準です。ドイツのパッシブハウス
基準が外皮性能の超高性能化が主眼であるのに対し、ミネルギー基準は外皮性能はそれ
より多少落ちますが、給湯、暖房にかかるエネルギー源をできるだけ太陽熱やバイオ
マスを利用することでこれらにかかる一次エネルギー全般を減らすことに主眼をおいた
極めて厳しい基準です。現状スイス国内で新築の25%、回収の10%程度がミネルギー
基準を満たしていると言われています。また、外皮性能をパッシブハウス基準並みに
高めたのがミネルギーP基準、さらに薬剤等をあまり使わないという意味でのミネルギー
Pエコという基準まであり、今回の住宅はこれに該当します。
パッシブハウス基準を聞きかじった人は「120kwh/㎡年以下なんですよね?」
とか「15kwh/㎡年以下ですよね?」的な感じで認識している人が多いと思います。
ここでいう120というのは1年間1㎡あたりの一次エネルギー使用量の基準値、15と
いうのは1年間1㎡あたりの暖房負荷の基準値を表します。日本が最近はじめた一次
エネルギーでの規制に対応するのは120の方になります。日本では暖房負荷という
基準は明確には表示されていません。
一次エネルギーというのを説明するだけでも紙面がなくなってしまうので詳細は
省きますが、ガスや灯油は家で使っている量そのもの、電気に関しては自宅が使う
分を作るのに発電所で使っている、石炭、石油、ガスのエネルギー量と考えていた
だければわかりやすいと思います。この際、電気に関しては自宅に来る際、発電所
で使うエネルギー量の1/2.7まで目減りしてしまいます。この値を一次エネルギー
換算係数(PEF)といいますが、これは各国の発電事情により異なります。各国の
事情を比較するには各国のPEFも理解しておかなければ、同じ土俵での比較はでき
ません。
また、一次エネルギーとひとことにいっても日本の場合「暖房」・「冷房」
「換気」「給湯」「照明」「家電・調理」までが含まれています。ところが、
パッシブハウス基準の場合
「家電・調理」のうち洗濯機や冷蔵庫のように生活に最低限必要ないわゆる
「レオパレス家電」しか含んでいません。スイスのミネルギー基準においては
暖房、換気、給湯の3つしか含みません。これらの項目も揃えなくては比較する
ことはできません。 そこで実際にこういった項目を揃えて比較してみました。
日本、ドイツ、スイスの3国に共通する項目は「暖房」「換気」「給湯」だけです。
しかし、給湯に関しては日本だけが入浴の習慣があります。また給湯器のシステム
も全く異なる上、ドイツ、スイスでは太陽熱温水器の利用が一般的になっていること
から含めてしまうと全く意味のない比較になってしまいます。そこで「暖房」と
「換気」(熱交換有)の状態でPEFも日本と同じ数値に換算して比較したのが黄色
の数字です。(表1)
低炭素基準の暖房負荷はドイツパッシブハウス基準の5.7倍緩い。
こうしてみると、パッシブハウス基準と、ミネルギーP基準はほぼ同等であること
がわかります。逆に日本の場合トップランナー基準相当の住宅でも2.64倍、低炭素
基準で3.44倍、改正省エネ基準(今までの次世代相当)だと3.88倍も緩い基準と
なっていることがわかります。日本の基準は義務基準、パッシブハウス基準とミネルギー
基準は民間基準ということで同列で比較するのは酷ですが、これだけの差がある
ということです。
ちなみに欧米の大半の国では国が義務として定める基準は「最低基準」という
のが一般的です。行政側が「義務化」できるのは最低賃金に似たようなもので
「最低限度」であり、それ以上の「理想的な水準」を義務化することはどこの国
とて難しいようです。ですので、どこの国にも「最低基準」として国の基準があり
、理想的な水準としての「民間基準」が存在します。日本は「次世代省エネ基準」
という悪しきネーミングのために、この「最低基準」であるという認識を持つ人が
少なくなってしまったと思われます。構造の分野を見れば明らかですが、耐震等級1
というのが基準法ぎりぎり、理想的な水準である等級3はその1.5倍の耐震性が
求められます。これと全く同じ図式だと思います。
ちなみに6地域以外にも日本の全地域の基準も比較してみました。
この計算において日本の基準はそれぞれの地域の推奨仕様に基づいて定めら
れたものです。要するに寒冷地ほど断熱仕様が高くなっているという前提での
基準数値です。ドイツやスイスの場合、立地の寒暖に関わらず、一次エネルギー
にしても暖房負荷にしても一律で定められています。その結果、南の方の暖かい
地域の断熱材は比較的薄くてもよく、逆に北部の寒冷地は強烈に分厚い断熱材が
求められるということになります。日本の場合、北に行くにつれて若干求められる
仕様が厳しくなることはご存知かと思います。しかしながら、その地域ごとの
仕様を満たしたとしても同じ室内環境を維持する場合には北の方が大量にエネルギー
を消費する基準であることがわかります。
もうひとつ日本の基準でどうしても不可解な点があります。それは部分間欠冷暖房
のほうが基準値が厳しく、全館冷暖房にすると基準が緩くなるということです。
車に例えるなら「軽自動車に乗る人は20km/L以上にしなければなりませんが、
クラウンに乗る人は車が大きいので10km/L以上ならいいですよ」と言っているのと
同じようにしか解釈できません。実際、この仕組を悪用して、ゼロエネの補助金確保
の際にはわざと全館冷暖房にして基準が緩い状態で補助金を獲得した業者がたくさん
いました。
次に暖房用一次エネルギーから日本の基準が必要とする「暖房負荷」をどの程度に
考えているのかを逆算してみました。(表2)
ドイツ、スイスに関しては最初から負荷
に関する暖房負荷の基準が出ているのでそのまま使いました。なお、暖房負荷とは
「一定温度に室温を保った際に暖房期間を通算してどれだけの熱量が必要かを合計
したもの」と考えていただければわかりやすいかと思います。暖房負荷は主に「断熱性」
「気密性」「日射取得」で決まるので暖房器具になにを使うのか?PEFの値がいくらな
のかといったことはまったく関係がありません。(表3)に各国が考える冷暖房負荷を
比較してみます。
低炭素基準の暖房負荷はドイツパッシブハウス基準の5.7倍緩い。
これを見て分かるのは暖房負荷単体でみると、一次エネルギーの比較以上に差が大きい
ことがわかります。トップランナー基準の外皮性能をもってしてもパッシブハウス基準
からすると4倍悪い。改正省エネ基準だと6倍も悪いということがわかります。これは
すなわち、同じ温度を維持するのに4倍もしくは6倍のエネルギーを必要とすることに
ほかなりません。実際に日本の住宅メーカーも含めて暖房負荷を表示している
「建もの省エネ健康マップ」を見てもほとんどの大手メーカーは暖房負荷が
80~95kwh/㎡に納まっていることが読み取れます。
http://tatemono-nenpi.com/map/
6地域以外の地域の冷暖房負荷も比較してみました。(表4)
低炭素基準の暖房負荷はドイツパッシブハウス基準の5.7倍緩い。
これを見ると北海道の中でも1地域においては16倍もの違いが出ています。1地域は
ドイツの最寒い地域よりも寒いと思われます。よってこのような値が出るんだと思います。
例えば旭川の1月の平均気温は-7.5℃ですが、ドイツ最北部のハンブルクでは1.5℃
くらいです。日射量が違うので同じ土俵での比較ではありませんが、1.5℃というのは
福島に該当します。福島は4地域に該当するので1月の外気温が同等の地域で比較した
としても実に11倍もの差があることがわかります。
ここでもうひとつ制度を作っている人及び大半の実務者、お施主様が考えている
「部分間欠冷暖房」の基準値も比較してみました。
これを見ると意外なことが見えてきます。温暖地ほど部分間欠暖房にすると確かにエネルギー
量が明らかに小さくなることがわかります。しかし寒冷地になるほど差が非常に小さく
なっています。これも寒冷地では全館暖房が当たり前になる理由のひとつなのかもしれません。
しかし、ここで注意しておく必要があります。部分間欠暖房をもってしてもすべての地域で
ドイツとスイスが全館暖房したときの基準値を大幅に上回っています。これが意味することは
「日本人が寒さを我慢し、健康を犠牲にして生活しても、全館ぽかぽかで暖かいドイツや
スイスの住宅よりもたくさんのエネルギーを使ってしまう」ことを表します。また、改正
省エネ基準(次世代省エネレベル)が想定している自然温度差(無暖房時の室温)はせいぜい
7℃程度です。東京や大阪でも1月の最も寒い日の早朝は0℃くらいにはなります。ということは
こういう日の朝は室温が10℃を切っている可能性が高いことを意味します。
わたしがここで言いたいのは「だから日本の基準が悪い」ということではありません。
ドイツやスイスは「人間が健康で快適に過ごしていく上で室温20℃というのは死守しなければ
ならない。しかしながら、CO2削減も絶対に必要である。エネルギー価格は確実に上昇傾向にある
。これらの相反する条件を満たすべく目標から逆算すると暖房負荷を極力小さくするしかない」
と考えています。
義務基準を厳しくすることが現実であるのは仕方がありません。しかし、我々建築実務者は一軒
一軒のお客様の「健康」「快適性」に大きな責任をもっているのはもちろんですが、その建物が
存在する限り「CO2排出量」「エネルギー輸入量」にも大きな影響を与えます。
一軒の住宅が排出する一次エネルギーは平均75GJと言われますが、自動車は概算で平均22GJ程度
です。しかも平均利用年数は11年なのでしょっちゅう買い替えする上、買い換える毎に低燃費化
していきます。お施主様の「健康」「快適」はもちろんですが、「自分が携わっている住宅の
件数分だけ大量のエネルギ-消費量を左右する存在にある」ことを自覚し設計をする必要があります。
ドイツでは全分野でエネルギー使用量をいついつまでに何%減らすということを最初に決定しています。
そこから逆算した場合に、現時点で各分野が何%減らさなければならないのかが決められています。
経営目標もこのように決められると思いますが、そのように決めていたとしてもそのとおりに行く
可能性が低いのは周知のとおりです。ましてや行き当たりばったりでやってたまたま目標に達する
ことなどないのは明らかです。しかしながら、今の日本の基準は現状の建材、施工の水準や業界
団体からの要望等をベースに決まっています。そうである以上われわれ一人ひとりの実務者が
責任を持つ姿勢が非常に重要になってくると思います。
もちろん省エネであるということはランニングコストが少ないということとイコールです。今日
紹介したような住宅を建てると大半の人が非常に安い光熱費で暖かく健康に過ごすことができます
。仮に節約派で暖房を全く使わない人でも最低室温が15℃を下回る箇所がないようにすることも
できます。要約するとどんな生活パターンの人にも最低限の健康と快適性を設計者が担保すること
ができるようになります。
以上ですが、読まれた上で感想等あればぜひお聞かせ下さい!

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