シミュレーションでは高断熱住宅の優位性が低く出てしまう理由
この二十年ほど本当に様々な温熱環境シミュレーションソフトを使ってきました。また200棟以上高断熱住宅を設計し一部では実測もしてきたのでどのソフトがどの程度実測と合うのか?もしくは乖離するのかということもある程度つかんでいます。重要なのは実測に近いソフトにおいて、更に実測に近くなるような設定のチューニングがあるということです。今までの経験上、「建もの燃費ナビ」と「ホームズくん」は設定をきちんと行えばかなり現実に近い値が出ると感じています。
しかしながら、このように実際に近い結果が出るソフトを適切に設定しても解消されない問題が表題の
「シミュレーションでは高断熱住宅の優位性が低く出てしまう」問題です。
いくつかの原因があるのでひとつづつ説明します。
まず、ほとんどのシミュレーションは同じ室温における暖房負荷、冷房負荷を計算しています。単純に考えれば「同じ室温であれば同じ暖かさ(涼しさ)だろう」となりそうです。しかし現実には違います。体感を同じにしようとすれば天井、壁、床、窓などの室内表面の平均温度(平均放射温度)も考慮しなければなりません。同じ室温の場合、高断熱住宅の方が平均放射温度が高くなるので体感温度は低断熱住宅より高くなります。
体感温度を同じにしようとすると低断熱住宅では室温の設定をあげてシミュレーションする必要があるのです。そうすると等温でのシミュレーションの差以上に大きな差がつきます。
さらに付け加えると仮に室温を上げて体感温度「(室温+平均放射温度)÷2」を同じにしたとしても低断熱住宅の床部分の温度は高断熱住宅よりはるかに低くなります。人間の実際の温冷感は足元の暖かさに強く影響されます。よって本当に同じ暖かさに感じようと思えば、上記の体感温度が等しくなる以上に低気密住宅では上げてやる必要があるということになります。
最後に、これは題目とはそれますが、高断熱住宅のメリットは室温をきちんと上げてこそ真価を発揮するというものです。断熱性能を表す熱貫流率の単位はW/㎡Kとなっていることから説明します。これは温度差(K:ケルビン)が大きいほど熱がたくさん出入りしますよ。ということです。逆を言うと内外温度差がゼロの場合は高断熱、低断熱に関わらず内外の熱の移動はなくなるということです。
室温は暖房によっても変わりますが、日射取得の量によっても大きく変わります。この観点からすると日射取得の設計が大きく生きやすいのは高断熱住宅であるということも見えてきます。