兵庫県に建築家はどのくらいいるのか?
建築家。。。そう言うとなんだか格式高くかっこいいイメージをお持ちになるかもしれません。この言葉は建築士という言葉とは定義が大きく異なります。建築士というのは厳密には一級建築士、二級建築士、木造建築士のように国もしくは都道府県が認証する資格制度です。
逆に建築家は国や都道府県の裏付けはありません。設計業務をやっている実務者が自ら「建築家」と名乗ればそれは建築家である。。。それが建築家というものの実態です。ただ、世間のイメージからすると建築家というのは非常に有名な建築物を手掛ける有名人という印象のほうが強いと思います。確かにそのような建築家もいらっしゃいますが、そのような建築家は世界中を見渡しても200人で収まるのではないかというほど、日本だとせいぜい数十人で収まってしまうほどしか存在しません。時々卒業した高校に呼ばれて学生相手に講演することがあります。現役の高校生に至っては、日本一有名で世界でも名前が轟く安藤忠雄氏の名前すら「ほぼ全く知られていない」というのが今の若い人たちの現実です。地域一番の進学校ですらこの状態なので、日本には若手世代にとっての有名な建築家というのは事実上存在しないと言えそうです。
できれば自称ではなく、作品のレベルから同業他社、もしくはお施主様から「建築家」だと思っていただける。。。これが理想的だと思います。しかし、それだとあまりにも曖昧です。そこでひとつだけ建築家の認証制度のようなものが存在します。それが建築家協会(通称JIA)という団体からJIA登録建築家という認定をもらうという方法です。
今現在日本には約5000名の登録建築家がいらっしゃるようですが、兵庫県では99名いらっしゃるようです。
私も若い頃に登録しましたが、当時は非常に狭き門でした。会員2名からの推薦が必要でかつ年会費が7万円ちょっと必要でした。これは少人数の設計事務所には非常に負担が大きいことで、ほとんどの設計事務所が加入していないというのが実情でした。そして建築家協会はどんどん高齢化が進み、会員数が減っていったように思います。それではまずいということで2万円台になりましたが、その後運営が困難になったのか現在では45000円+支部会費という形に再値上げされているようです。
他に建築家として業界内である程度認知される方法をいくつか紹介します。1つ目は何らかのコンテスト等で受賞することです。これはタイトリストとも呼ばれます。一つ以上タイトルを取っているのであれば建築家と名乗るには十分ではないかと思います。
2つ目はそれなりに難易度が高い、もしくは規模の大きいコンペに勝つというものです。
これもメディアに取り上げられることも多いので業界内での認知が広がります。一つでもこのような実績があるのであれば建築家として立派な実績になると思います。
3つ目は自ら設計した建築物がそれなりの専門誌に掲載されることです。デザインの世界では新建築、住宅の世界では住宅特集(jt)に掲載されることは建築家の世界でひとつのステイタスとなっています。また、デザインだけではありませんが、総合的に業界情報が網羅されている日経アーキテクチュアに掲載されることも建築家として大きな実績だと思います。
このようなどれかの方法で「他称」建築家になる人の中にも二通りに分類することができます。一つは日建設計、竹中工務店設計部といった超大手の組織事務所に所属する企業内建築家、もうひとつはそれこそ3名から50名くらいまでの規模でアトリエ系と言われる建築家です。規模も歩んできた道もこの2つは全く違います。組織事務所の設計はデザインはかなり攻めているとしても雨仕舞や構造、メンテナンス等に対して一定のレベルはクリアしていることが多いと感じます。反面、少人数のアトリエ系の建てる建物はデザインだけ見ればそれこそ組織事務所では絶対にやらないようなぶっとんだデザイン及びセンスを見受けることもよくあります。反面、雨仕舞、構造、メンテナンス等に関してはかなりの不備がある建物が多いのも現実です。
昔の旦那衆のようなクライアントの場合「私はあんたのデザインに惚れたんや。お金の心配なんてせんでええからあんたの思うようにやってください」という感じの方が多かったと思います。またかなりメンテナンスや維持費がかかったとしてもそれを気にしないか、どうにでもなる経済力がある人が多かった。また建築家の敷居が今よりずっと高かったことからそのような余裕のある人しか建築家に頼まなかったという実態があったと思います。今は戸建て住宅でも建築家が携わることが少しづつ増えてきました。私も現在は9名程度の建築家集団を名乗っていますが、最初に修行したのが大手住宅メーカーの設計部でした。ここでは構造、施工、メンテナンス、営業手法、契約の段取り、等々様々なことをきちんと教えてもらうことができました。またミスが有った場合それが二度と起こらないように全社的にフィードバックされる体制も整っていました。当時としてはそれが非常に窮屈に感じていましたが、自由度が制約される代わりに品質の安定とミスの少なさがある程度確約されるという側面がありました。
そこから当時兵庫県内で最も大きかった建築家の事務所に転職しました。そこではこのような制約がほとんどない。ものすごい「自由」を感じました。それとは逆に強烈な「無法地帯感」も感じました。まさに「なんでもありやな。。。」という感じでした。それでもその会社は鉄筋コンクリート造が中心だったのでまだその無法地帯感はましな方でした。
最もこの無法地帯感が強いと感じるのはアトリエ系の建築家です。それに準じるのが小規模でありながらも自社で設計施工をやっている木造住宅の工務店です。
アトリエ系の建築家の住宅はたいてい構造上脆弱であることが多くなります。耐震等級3をクリアする建築家は極めてまれです。また断熱等には興味がない建築家が多く、暑かろうが寒かろうが非常に低断熱の窓を方位も気にせずガンガン使う傾向にあります。よって暑い、寒いのに冷暖房費が強烈にかかってしまいます。逆をいうと冷暖房費をたくさん使っても結構寒いし、結構暑くしかならないとも言えます。雨仕舞に関しても非常に際どい納め方をしているので確率的に言うと住宅メーカーで雨漏りする確率が200軒に一軒だとすると一般的な工務店が50~100軒に一軒、アトリエ系の建築家だと20軒に一軒程度は雨漏りが発生するくらい(これは例えで正確な統計データではありません)差があります。さらにこの確率はデザインが先鋭的な建築家ほどこの傾向が強くなると言えます。頼む側のクライアントがこういったことを理解し飲み込んだ上でそのような建築家に依頼するのであればいいのですが、わからずに頼んでしまうことが多いので注意が必要です。よく例えるのですがこういった建築家の住宅に住むためには「冬に裸足で革靴をはく」くらいの覚悟が必要なのです。まさに「おしゃれは大変」なのだということです。