ドイツ、オーストリア視察で強く感じた生活の豊かさ
ドイツ、オーストリア視察で強く感じた生活の豊かさ
過去5年ほどの間に5,6回ヨーロッパに行きました。その中で実際に住まれている家や幼稚園
小学校などもたくさん見てきました。そんな中でGDPは日本より劣る国であっても大多数の
日本人よりはるかに豊かな生活をしている実態を目の当たりにしてきました。
ドイツに行き始めたばかりのころはとにかく省エネ住宅系ばかりの見学に終始し、そちら方面に
ばかり頭がいっていましたが、今回はツアーの前半を知人でオーストリアに在住している
オーケストラ指揮者の杉山さんに案内していただいたことで現地の生活の豊かさを改めて
強く感じさせられました。
杉山さんは30年ほど前に指揮者になるための勉強をするためにオーストリアに渡ったんだそうですが
現地に着いて驚いたことは音楽よりもむしろ「家の中がどうしてこんなに暖かく快適なんだ!」
ということだったそうです。そこから、杉山さんは仕事はプロの指揮者でありながら、
趣味のように高断熱住宅の世界にのめり込んだそうです。それが縁で知り合ったのですが
世界にはものすごい専門外なのに詳しい方がいるもんです。
日本では1億を超えるような住宅に住んでいる人も住環境という意味では決して理想的な住宅に
住んでいません。むしろマンションの中間階の中部屋に住んでいる人のほうがよほど快適な
生活を送っていることがほとんどです。(暖かいという面で)
しかし、ドイツやオーストリアもしくはその周辺国では冬場どんな戸建て住宅であってもぽかぽかの
状態で過ごされています。また、夏も日本の暑さに比べればはるかにましです。
日本もあちらの国々も1年の約半分は暖房が必要な地域です。それだけ長い期間を我慢しながら
かつ様々な健康不良や病気と共存しながら過ごすのか?もしくは快適かつ健康に暮らすのかは非常に
大きな差だと言わざるを得ません。夏に関しても、日本の住宅は電気ストーブで言えば強運転と
同等の輻射熱を受けながら20℃くらいの冷房を同時に受けることによって体調不良と不快さを同時に
体験するか、もしくは熱射病になるかどうかの暑さと格闘しながら過ごすかのどちらかしかないような
有り様です。
今回も一緒に視察にいったテクノフォルムの橘社長ご夫妻は過去30数年シンガポールに住まれていましたが
「赤道直下のシンガポールの暑さのほうが日本の暑さよりもはるかにまし」といつも口癖のように言われます。
これはみなさん以外に思われるかもしれませんが、当たり前といえば当たり前のはなしです。
夏至で比較するのはあまり正確ではありませんが、地球の自転軸は23.4度傾いています。
ということはシンガポールは年中23.4度分最も暑いところから離れていることになりますが、
北緯35度程度の日本の場合35-23.4=11.6度相当しか離れていないことになります。
そこまではいつも言っている温熱の話ですが、もちろんそれだけにとどまりません。
・勤務時間が短いので夫婦とも5時には仕事が終わる。
・夫婦が共働きの家庭がほとんど
・共働きでも家族が皆で夕食を共にすることができ
・家の中が快適できれいにインテリアがコーディネートされている
・3世代に1回程度しか家を建てないので経済的に余裕がある。また
建てた次の世代が良い家具を吟味して購入し、長く使うといったような
文化がある。
・土日は閉まっている店が多い。ということは土日母親だけがパートに出ている
ような家も少ないということ。イコール週末は家族で過ごす時間が多い
・年間に1ヶ月程度は有給休暇が取れる。それを使って田舎にある決して贅沢では
ない別荘のようなところに長期滞在する。都会の喧騒から離れて薪割りやちょっと
食事の用意を共同で行うといったことを自然の中で満喫するだけのような休日の
過ごし方をすることで、お金をそれほど使わずとも休暇を充実させる術を知っている。
・リゾート施設の価格が日本の最高級クラスでもそれほど高くない値段で利用出来ることが多い
・幼稚園の頃から「自分で考えて発言する」という教育が徹底されている。
・地方分権が進んでおり、各地方が決してさびれることなく、魅力と活力を持っている。
・人口20万人クラスの地方都市でも人が住む場所とそうでない場所を明確に区分し
比較的集まって過ごすことで、インフラ整備のコストを下げている。また
風力発電を近隣の非居住地域に建てることで、低周波騒音等の問題も少ないようですし
送電線を設置するコストも安いようです。
・集まった町の周囲にはすぐ近くに自然があり、平日でも散歩やサイクリングにいそしむ
人が多い、山に関しては「市民の財産」という考え方があり、国民はだれでも自由に
林道を散策する権利を持っている
・森林官(フォレスター)という仕事があり、生物多様性を重視した林業政策が
地道に行われている
・平日の普通の昼食のシーンを見ているだけでも「楽しんで食事をしている」感じが伝わってくる
他にもいろいろありましたが、全体的にどこの町に行っても感じるのがこういうところです。
これにプラスしてドイツ(世界)でも最高峰の環境都市であるフライブルクになるとさらに
進んでいると感じる点がいろいろとありました。これはまた後日改めて書きたいと思います。
「健康で快適な省エネ住宅を経済的に実現する」というモットーは「家族の幸せのため」
というのを今月の新建ハウジングの連載で書きました。家族の幸せとは「豊かさ」(経済的
というだけの意味ではありません)ともほぼイコールかと思います。このモットー以外に
我々住宅設計者が貢献することができる豊かさは「デザイン」という点ももちろんですが
「時間短縮」という点も昔から非常に重要視しています。
よく、OBのお客様から「暖かいので風呂あがりに本を読んだりしようという余裕ができた」
とか「いろいろ工夫してくださったので家事の時間が1日30分は節約できました」
という声をいただきます。
日本の働きざかりのお父さん、お母さんは本当に働き過ぎの方が多いのが現実です。
それを変えるのは難しいですが、設計の工夫で無駄な時間を減らしてあげることは
できます。
これからは、「豊かさ」というのも改めて大きなテーマにしなければならないと強く
思っています。
ほかにもいろいろありますが、パッと思いつくだけでもこういった