構造基準は厳しくすべきか?
熊本の地震後、建築学会の構造の先生方、及び国交省等で耐震基準を厳しくするかどうか?についてかなり議論がなされているようです。
阪神大震災の後もそのような議論が行われ、2000年に耐震基準が改訂されたのですが、それでもその基準に合致する建物が17棟も倒壊してしまったのは実務者は周知のとおりです。
このときに議論されるのは
「建基法が定める最低基準を引き上げ、ある程度のコスト増を容認するか。安価な住宅を供給する経済合理性を勘案して現行の最低基準は維持するか。木造住宅の耐震性能向上策は、これから我々がどのような社会を目指すかという観点から考える必要がある。」
というところに集約されると思います。
一見確かにごもっともなんですが、個人的には全く納得いかないところがあります。
いつもワンパターンで恐縮ですが、車で考えてみましょう。
大震災というのは交通事故と同様に考えていいと思います。
生涯起こさない人もいるにはいますが、車を運転する限り
(住宅に住み続ける限り)生涯に一度以上は体験する確率が
高いというように捉えてもいいかもしれません。
かなり所得の低い方でも任意保険に入らずに車を運転している人というのはほぼ皆無ではないでしょうか。それは無保険で一度でも人身事故を起こしてしまうと、ほとんどの方がファイナンシャルプラン的に人生が終わってしまうことを知っているからです。
※知人からの指摘で無保険の方が結構いるということが判明しました。https://www.sonpo.or.jp/…/s…/pdf/index/kanyu_jidosha_ken.pdf
住宅においては耐震等級3以上であれば、倒壊という事態に至ることはまず考えられないというのが、専門家の間での共通見解です。それがひとつの保険です。これで家による死をほぼほぼ免れるわけですから、せいぜい基準を高めるとはいえ30万もあがらないことですから、それで家族の命が守られるとしたら誰ひとりとして高いとは思わないはずです。
これが義務化になれば、今後建てられる方に関しては命の心配、そして倒壊によるファイナンシャルプラン上の破産の恐れもなくなります。
しかし、これが無理なのであれば、そうでない方は地震保険に入るか、倒壊したときに新たに住むところを確保できるだけの貯金をしておくということが必要になります。
阪神、東日本、熊本のいずれもそうですが、このどちらの準備もしていないままに自宅が倒壊してしまった方のその後の人生は困難を極めているはずです・・・
もう少し深入りして考えると地震保険には様々な免責事項があります。さらに本当に南海トラフ地震が連動した場合に、はたして保険会社が本当に支払えるだけの余力があるのか??みたいなことまで気にかからないでもありません。
もうひとつ気になるところが専門家の間で
「公共建築物の基準は避難場所でもあることから住宅より厳しくあるべきだ」
みたいな議論がよく聞かれるところです。
一見もっともらしく聞こえますが、私には単純に納得できないところがあります。まず、時間的な確率、自宅にいる時間の方が長い人が多いということ。そしてファイナンシャルプランで考えた場合、公共建築物が壊れて直接的被害を被る人はいませんが、個人住宅の場合、破産を意味します・・・
先程も書きましたが「経済的合理性」みたいなことを語る場合に等級3を義務化しても若干壁量と鉄筋量が増えて、プランの制約が少し増えるくらいの話です。金額もせいぜい30万アップまででしょう。生涯における地震保険を払い続けるコストよりもはるかに安いと思います。
このように考えると、耐震基準をあげないという選択肢は経済的合理性の観点からもありえないと思うのです。