設計事務所で「満足できるデザイン」を実現する
デザイン論をうんぬんする前にお話したいことがあります。
聞いたことがあるかもしれませんが、「マズローの欲求段階説」という説です。
これはどういうものかというと、欲求にはおおまかに分けて五段階のレベルがあり、
下から順に
「生理的欲求」→「安全の欲求」→「親和の欲求」→
「自我の欲求」→「自己実現の欲求」の順番となっていくというものす。
下のほうの欲求は誰もが満たしたいと思っていますが、
現在の日本においてはほとんど当たり前となってしまっています。
人間というのは贅沢なことに、下の段階の欲求を満たしてしまうと、
その上の段階の欲求をみたさなければ精神的に満たされないようになっているらしいのです。
この説を住宅にあてはめて考えると、「生理的欲求」にあたるものとしては、
「飯が食えないのに家にかけるお金はない。」というようなことになるでしょうか。
「安全の欲求」ですが、ただ単に家を所有するだけではなく、地震で壊れない
ことであったり、シックハウス症候群にかかったりしないといったようなことが考えられます。
次に「親和の欲求」ですが、家の中においては家族の仲をとりもつことであり、
家の外では、ある程度日影に配慮して建てる等、御近所との関係を悪化させない、
又町並みに合わせるような家になります。
さてこのあたりからデザインに関わってきます。
「自我の欲求」と「自己実現の欲求」です。
これは自分が好きなデザインであるといったことや、「ほら、すごいだろ」
といいたくなるような家を指します。
たしかにいわゆる豪邸という家では、ほんの数人のために何百㎡もの家を作ったり、
通常の何倍もの値段の床や壁等さまざまな材料が惜しげもなく使われています。
私もあなたに予算が充分にあり、それを要望されるなら当然そういうデザインも行います。
ただ、大多数の人はそこまで金銭的な余裕がありません。
じゃあどうすればいいのかというと、原則があります。
「絶対に下の段階の欲求から順番に満たしていかなければならない」
ということです。
つまり、
「頑丈で、シックハウスにもならない見た目は何の変哲もない建売の家」と
「構造は弱いけど、デザインはすばらしい家」があった場合、
間違いなく前者のほうが優れるということです。
「じゃあお金がないとデザインのいい家は建てられないの?」
というと一概にそうではありません。
ただコストの配分をより上手に考えないといけないということになります。
つまり、わざと丸い部屋を造ったり、見せかけだけのオブジェのようなものを
とりつけるといったデザインのためのデザインにお金をかけるのではなく、
「構造それ自体がデザインとなるような機能美的な美しさ」
に徹していく必要はあると思います。
ここから設計に対する大まかな考え方をお話します。
デザインで満足する家づくりのコツその①
- 「建物の金額は少し絞ってでも、照明と植栽にまわす。」 照明器具の詳しい説明→
- それと一般的には建物の設計だけをする場合が多いのですが、
これだけではデザインのいい家にはなりません。なぜなら部屋の雰囲気を
つかさどるのは箱だけではないからです。家の中においては照明器具、家具、
外部においては植栽・外構をぬきにしていいデザインにはなりません。
でもたいていの場合、予算配分を建物本体で目いっぱい使ってしまい、照明と植栽は
残った予算で・・・という場合、もしくは、将来お金がたまったら・・・という理由で中途半端に
なってしまう場合がほとんどです。私の知る限り、このパターンで後日、照明をいいものに変えたり、
植栽工事をきちんと行ったという例はほとんどありません。
- それと一般的には建物の設計だけをする場合が多いのですが、
デザインで満足する家づくりのコツその②
- 「少なくともリビング・ダイニングは家具も含めてデザインする」
次に、きれいな部屋に住んでいるという実感がわくためには、建物引渡し後家財道具の搬入も終わり、 片付け終わった姿こそが重要で、空っぽの状態がきれいでも収納等の配慮が少なく、結果として
ごちゃごちゃした家になってしまえばあまりいいデザインとはいえません。
住宅メーカーや、マンションのモデルハウスで多くの方が心奪われるのは、きれいに片付いているのは
もちろんのこと、照明器具、家具、調度品、BGM、行き届いた空調等隅々まで行き届いた演出(デザイン)
がなされているからです。私がよく施主の方に説明するの言葉に、
「いい雰囲気の店は隅々まで気を配られているからいい雰囲気である。」
というのがあるのでのですが、一発でその雰囲気を壊すこともできます。
「S&Bのコショウ」 をテーブルの上に置くだけでいいのです。
これでその雰囲気は完全に壊れてしまうでしょう。それぐらい、いい雰囲気と
いうのは全体のバランスでなりたっているのです。
でも・・・。毎日の生活は忙しいし、子供はちらかすし・・・等実際の生活
でそんな雰囲気を維持するのは本当に難しいことです。
だからこそ、適当に生活していてもそれなりに見えるような設計が必要となってきます。
今大多数の新築住宅は、LDKが一体になった設計がほとんどです。
これらを一体にすることで少ない面積でも広く感じることができるというのが一番の利点ですが、
この場所は家族が集まる唯一の場所であり、応接間がなくなった今になってはお客様との応接間にもなります。
ということは、
「リビング・ダイニングだけでもそれなりにしておけば、
家全体の「デザイン」がよくなったように感じやすい。」ということです。
よって、リビング・ダイニングだけは家具、調度品含めて最初から考えておくのが良いと思います。
これは多少リビングが広いことよりも大きな効果があります。
デザインで満足する家づくりのコツその③
- 狭い面積の家でも狭く感じさせないよう設計する。
- 出来るだけ目線が抜けるように工夫する。(例えば壁を透明のアクリル板にしてみたりといったことです。)
- 極力間仕切の少ないプランにする。
- 廊下を少なくしてリビングを中心としたプランにする。
- リビングから上っていく階段にする。
- 家中隈なく太陽光が入るよう工夫する。
- 壁の色を明るめにする。
- 天井高さを高くしたり、吹抜を作る。
- ウッドデッキや坪庭を造ったりすることで、外部も部屋の一部のように感じさせる。
- 家全体を同じような温熱環境にすることで、実際に使われる空間を増やす。
- 引き戸を多用し、普段は開け放しにできるようにする。
- 収納を上手に考える。
他にもいろいろありますが、このようなことを組み合わせて考えると、面積の割りに広く感じる空間を演出(デザイン)できます。
デザインで満足する家づくりのコツその④
- 線の数は少なく少なく・・。
- 現場というものは放っておけば施工がしやすいようにという観点だけで
どんどん進んでしまいがちです。例えば、枠があるなら枠をなくすといった
ように部材の数を減らしたり、見た目に見える線の本数をへらすことによって
かなりすっきりしたデザインにすることができます。
- 現場というものは放っておけば施工がしやすいようにという観点だけで
デザインで満足する家づくりのコツその⑤
- そろえる所はそろえる。
- 例えばある立面図があった場合に1階と2階にサッシがついているとします。
できるならば上下そろった位置に設置したいものです。
- 例えばある立面図があった場合に1階と2階にサッシがついているとします。
デザインで満足する家づくりのコツその⑥
- 屋根の形は極力シンプルに
- 今の日本の住宅を見ると、お客様のいうままに平面プランをただ組み合わせただけの家が
かなり多いことに気づきます。その結果小さな家にも関わらず、 建築家顔負けの複雑なデザイン?
の屋根になっている家が多いです。これは雨じまい の点からも良くなければ、施工もしにくく、
なおかつコストもかかってしまいます。木肌を見せる木造なら下から見上げたときの木組みも美しくありません。
木肌を見せるなら、切妻か片流がお勧めです。
切妻とは・・中央部が一番高く、両サイドの2方向に流れていく形状です。
片流とは・・端の一辺が一番高く、反対サイドの1方向に流れていく形状です。
- 今の日本の住宅を見ると、お客様のいうままに平面プランをただ組み合わせただけの家が
デザインで満足する家づくりのコツその⑦
- 敷地に入ってから玄関までに一工夫を
- 昔の日本の住宅には小さな家でも玄関までの動線にいろんな仕掛けがありました。
例えばわざと奥に玄関を作ったり、視線をずらす仕掛けを作ったり・・・
これらのことでなにかその家に入っていくときにワクワク感が芽生えます。
これは大事なことではないでしょうか?
デザインで満足する家づくりのコツその⑧
- 手で触れるものには特に気を使う。
- 例えばドアノブですが、見た目だけではなく冬触って冷たくないのか?
年月がたつことによって色落ちしたりしないか?触り心地もしくは使い心地はどうかなど、
見た目のデザインだけではない様々な要素が絡んできます。
- 例えばドアノブですが、見た目だけではなく冬触って冷たくないのか?
デザインで満足する家づくりのコツその⑨
- 敷地を極限まで読みこなす。
- その土地から見える風景を考える。
- 道路などからの見え方を考える。
- 隣地の窓の位置等を考慮する。
- 駐車スペースの上手なとり方
- 物干しスペースの上手なとり方(よく乾き、人から見えない)
- 太陽の当たり方をよく考慮する。
- 風の通る方向を考える。
他にもたくさんありますが、代表的な考え方をあげてみました。
これらのことを複合的に検討していくことで、家のデザインが出来上がっていきます。
その結果として何年たっても「居心地のいい家」に近づくことができます。