断熱と日射取得はどちらが効く?シミュレーションで見た効き方の違い
この記事のポイント
- 24時間薄く効くのが断熱性能、昼間に強烈に効くのが日射取得。役割がそもそも違う。
- 昼間の日中のピーク室温は断熱を上げてもあまり変わらない。差が出るのは冷え込む朝方。
- L字の向きを90度変えるだけで暖房費が約7%変わる。工務店1,000名超の約55%が誤答した。
- 南側の凹凸は暖房費を上げ、北側の凹凸は室内の温度ムラを大きくする。
- 延べ床が同じでも平屋のコの字型は表面が34面。同じUA値で熱損失は約1.5倍になる。
目次
- 断熱と日射取得はどちらがよく効くのか?
- シミュレーションで何が分かったのか?
- 断熱性能はどの時間帯に効くのか?
- 間取りの凹凸はなぜ冷暖房費を変えるのか?
- 平屋のコの字型はなぜ高くつくのか?
断熱と日射取得はどちらがよく効くのか?
断熱と日射取得の違いとは、効く時間帯と効き方の違いです。断熱性能は24時間にわたって薄く効き、日射取得は昼間に強烈に効きます。どちらが上ということではなく役割が違うため、片方だけを追いかけると期待した結果になりません。
定量的に比較された例がほとんどない
この2つを数値で比較した情報は、動画でも書籍でもほとんど存在しませんでした。温度のシミュレーションが難しく、時間ごとの室温変化を目に見える形で示せなかったためです。松尾はシミュレーションソフトを使い、同じ住宅で条件だけを変えた比較を行いました。
この検証は、松尾がこれまで公開してきた解説のなかで、シミュレーションの作成から資料としてまとめるまでに最も時間がかかったものだといいます。
断熱等級の選び方は、よくある質問の断熱等級4・5・6・7の違いは?にまとめています。
シミュレーションで何が分かったのか?
シミュレーションの条件とは、国の標準プランを使い、断熱性能を3段階、隣家の有無を2通りに変えた合計6パターンで室温を比べたものです。場所は神戸、時期は1年で最も冷え込む1月中旬から下旬、暖房をまったくしない状態で24時間の室温変化を追いました。
試算の前提
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| 使用したプラン | 国の標準プラン(東と南に隣家、北と西に道路) |
| 場所 | 神戸 |
| 時期 | 1年で最も冷え込む1月中旬から下旬 |
| 暖房 | まったく行わない状態で室温を追う |
| 外気温 | 最低で1〜2度、高い時間帯は10度を超える日 |
| 変えた条件 | 断熱性能3段階 × 隣家の有無2通り=6パターン |
隣家の有無で結果が入れ替わる
| 断熱性能(UA値) | 位置づけ | 隣家あり(日射が入らない) | 隣家なし(日射が入る) |
|---|---|---|---|
| 0.7 | 国の基準0.87をやや上回る水準 | 1階の室温はあまり上がらない | 劇的に上がる |
| 0.54 | G1の0.56をわずかに上回る水準 | 昼に2階がやや暖まる程度 | 1階の北側廊下や洗面室まで暖まる |
| 0.44 | G2の水準 | 1階が暖まるかどうかの瀬戸際 | 暖房なしで洗面室・浴室が13度を超える |
外気温は最も低い時間帯で1度から2度、高いときには10度を超える日でした。
ここで注目すべきは、UA値0.54で隣家がある家より、UA値0.7でも隣家がない家のほうが暖かく見えるという結果です。断熱性能を1段階上げるより、日射が入る条件のほうが室温への影響が大きく出ました。
日射の山は断熱の差より大きい
日射が入る条件と入らない条件の差を重ねると、日射による室温の上昇分は、断熱性能の差による上昇分よりもはるかに大きな山になります。ただしこれは太平洋側での試算です。秋田から山口にかけての日本海側のように、冬のあいだ曇っている時間が長い地域では同じようにはなりません。
断熱性能はどの時間帯に効くのか?
断熱性能が効く時間帯とは、日射のない冷え込んだ時間帯、とくに朝方です。昼間の日中のピーク室温は、断熱性能を上げてもそれほど上がりません。一方で1日の底となる室温は、断熱性能を上げるとはっきり持ち上がります。
効き方が正反対
| 項目 | 断熱性能 | 日射取得 |
|---|---|---|
| 効く時間帯 | 24時間 | 昼間のみ |
| 効き方 | 薄く継続的に効く | 強烈に効く |
| 昼間の日中のピーク室温 | 上げてもあまり変わらない | 大きく上がる |
| 冷え込む朝方の室温 | はっきり持ち上がる | 効かない |
| 差が広がる条件 | 暖房設定温度が高いほど/日射取得が良いほど | 隣家が影を落とさないほど |
朝方は寝起きの時間帯であり、暖かければ起きやすくなります。ここに効くのが断熱性能です。
暖房した状態では断熱の差がそのまま費用に出る
上記の比較は暖房をしていない状態の室温を並べたものです。そのため断熱性能の差が小さく見えます。しかし同じ20度を保つように暖房した場合、話は変わります。UA値が半分になれば暖房費もおおむね半分という形で、差はきれいに現れます。日射が効くからといって、断熱を過小評価すべきではありません。
間取りの凹凸はなぜ冷暖房費を変えるのか?
間取りの凹凸が冷暖房費を変える理由とは、自分の建物が自分の窓に影を落とすからです。断熱性能も表面積もまったく同じL字型の住宅でも、向きを90度変えるだけで年間の暖房費が変わります。松尾は同じ問題を1,000名を超える工務店に出してきました。
約55%が間違える問題
南側に凹凸があると、午前中に自分の建物の影ができ、窓に当たる日射量が減ります。冬のあいだトータルすると、暖房費は約7%違ってきます。この問題では約55%の実務者が間違ったほうに手を挙げます。
もう1つ、どちらが温度ムラが少ないかという問題もあります。こちらは1,000人ほどに聞いて、根拠を持って答えられた人が一人もいませんでした。
数える方法で答えが出る
住宅を3つのエリアに分け、外気に接する面を1つにつきマイナス1、南に窓がある面をプラス1として数えます。
| 凹凸の位置 | 各エリアの点数 | 結果 | 起きること |
|---|---|---|---|
| 南側に凹凸 | すべて同じ点数になる | 温度ムラは小さい | 暖房費が高くつく(影で日射が減る) |
| 北側に凹凸 | エリア間で2ポイントの差 | 温度ムラが大きい | 部屋ごとの寒暖差が出る |
南側に凹凸がある住宅では、3つのエリアがいずれも同じ点数になります。外気に接する面が多いエリアほど不利になる一方、南に窓があるエリアはその分を取り戻すため、結果として横並びになるからです。エリア間の差が小さいので、温度ムラは出にくくなります。
一方、北側に凹凸がある住宅では、エリアごとの点数が揃いません。最も条件の良いエリアと悪いエリアで2ポイントの差が生まれ、それがそのまま部屋ごとの寒暖差として現れます。実務者に多かった誤答は、寒いエリアに隣接しているという理由で判断するものでした。実際には外気に接している面がいくつあるかで決まります。
結論はこうなります。南側に凹凸を作ると冬の暖房費が高くつき、北側に凹凸を作ると家の中の温度ムラが大きくなる傾向があります。
家相や風水には、張りや欠けを作るなという言い伝えがあります。これはもともと構造計算がなかった時代に丈夫な建物を作る目的から来たものですが、張りや欠けが多い形は現在でも冷暖房の両面で不利に働きます。
平屋のコの字型はなぜ高くつくのか?
平屋のコの字型が高くつく理由とは、基礎と屋根の面積が増え、外気に接する表面そのものが大きくなるからです。延べ床面積が同じでも、形が違えば工事費も冷暖房費も変わります。中庭のある平屋は人気がありますが、費用の負担は建てた後まで続きます。
延べ床が同じでも外気に接する面の数が変わる
延べ床面積を8として3つの形を比べます。
| 形 | 延べ床 | 基礎の面積 | 屋根の面積 | 外気に接する面の数 |
|---|---|---|---|---|
| 立方体に近い総2階 | 8 | 4 | 4 | 20面 |
| やや細長い総2階 | 8 | — | — | 28面 |
| 平屋のコの字型 | 8 | 8 | 8 | 34面 |
この面の数を数える問題を日本中の工務店に出したところ、細長い総2階まではほとんどの人が正解するのに対し、コの字型については半数を少し超える人が間違えました。数を数えるだけの問題ですが、実務者でも正解率は高くありません。
平屋が高いと言われる理由は、基礎と屋根の面積が大きくなるためです。工事費が上がるだけでなく、広い土地も必要になります。そして表面の材料が増えるということは、そこからの熱損失も増えるということです。松尾の試算では、同じUA値でも立方体に近い形とコの字型では熱損失が約1.5倍になります。
予算がぎりぎりなら勧めてはいけない
コの字型の中庭やデッキは気持ちのよい空間になります。しかし工事費が高いだけでなく、住み始めた後の冷暖房費も高くなります。さらに凹凸によって日射も減るため、暖房費はいっそう高くつきます。
予算に余裕のない施主にこの形を勧めれば、生涯にわたって費用の負担を強いることになります。実務者はこれを理解したうえで助言する必要があり、施主の側もこの知識を持って臨まなければ、住み始めてから費用に苦しむことになります。
まとめ:断熱と日射取得は役割が違う
暖かい家にするための判断は次の4点です。
- 日射取得を先に確保する —— 昼間に強烈に効き、配置と間取りでしか手に入らない
- 断熱性能で底を上げる —— 冷え込む朝方に効き、暖房すれば費用に直結する
- 南側に凹凸を作らない —— 自分の建物の影で暖房費が約7%変わる
- 形をシンプルにまとめる —— 延べ床が同じでも、形だけで熱損失は約1.5倍になる
図面を受け取ったら、南側に凹凸がないか、外形がシンプルにまとまっているかを確認してください。この2点は工事費と冷暖房費の両方に同時に効きます。
よくある質問
- 断熱と日射取得はどちらを優先すべきですか?
-
どちらが上ということはなく、効き方が違います。断熱性能は24時間にわたって薄く効き、日射取得は昼間に強烈に効きます。シミュレーションでは、UA値0.54で隣家がある家より、UA値0.7でも隣家がない家のほうが暖かい結果になりました。
- 断熱性能を上げても昼間は暖かくならないのですか?
-
昼間の日中のピーク室温は、断熱性能を上げてもそれほど変わりません。断熱がはっきり効くのは、日射のない冷え込んだ時間帯、とくに朝方です。1日の底となる室温が持ち上がるため、寝起きの寒さが変わり、朝の暖房の立ち上がりも楽になります。
- 日射が効くなら断熱は後回しでよいですか?
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よくありません。紹介した比較は暖房をしていない状態の室温であり、断熱の差が小さく見えます。同じ20度を保つように暖房すると、UA値が半分になれば暖房費もおおむね半分という形で差が現れます。過小評価しないでください。
- この結果はどの地域でも同じですか?
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太平洋側での試算です。秋田から山口にかけての日本海側のように、冬のあいだ曇っている時間が長い地域では、日射による室温上昇はここまで大きくなりません。地域によって日射取得の効き方は変わると考えてください。
- 間取りの凹凸はどのくらい影響しますか?
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断熱性能も表面積も同じL字型で、向きを90度変えるだけで冬の暖房費が約7%変わります。南側に凹凸を作ると自分の建物の影で日射が減り、北側に凹凸を作ると家の中の温度ムラが大きくなる傾向があります。工務店1,000名超への出題では約55%が誤答しました。
- コの字型の平屋は避けたほうがいいですか?
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予算に余裕があるかどうかで判断してください。延べ床が同じでも外気に接する面は34面と最も多く、基礎と屋根の面積も倍になります。同じUA値でも熱損失は約1.5倍になり、工事費と冷暖房費の両方が高くつきます。