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高性能住宅ガイドライン
プロも間違う、高性能住宅の“誤解”と“質問”
これは日本の大学の研究結果で既に結論が出ています。2018年の建築技術1月号でもその記事が書かれています。端的にまとめると床下結露に関しては1年目に関してのみ床断熱が有利、2年目以降は生涯に渡って基礎断熱が有利になります。これは最初の1年目に1トンを超える量の水分が基礎から発生するからです。
断熱性能に関しては、床断熱にしても基礎断熱にしてもどの断熱材をどの程度の厚さ使うかによって変わるので比較する意味がありません。
もうひとつ重要な視点としてシロアリに対する安全性の差があります。私は日本最大の防蟻薬剤を開発メーカーにアドバイザーとして関わっているのですが、その会議に参加すると絶対に言われるのが「基礎外断熱は絶対に駄目」ということです。もちろん、基礎外断熱には「防蟻処理」が施された商品が存在します。しかし、それらの商品が実際に実験室でシロアリに食われているところを私はこの目で確認しました。
しかしながら、基礎内側表面の結露のしにくさからいうと逆に基礎外断熱がもっとも優れています。要するに完全に相反するわけです。これらを総合的に考えた結果、当社では基礎内断熱を標準としています。また、そうすることによって床下に暖気を流し込む床下エアコン暖房を可能にしています。床下エアコン暖房を使うと、1年目の基礎の水分が蒸発しやすくなることから、その面でも効果的であると考えています。
これは日本の大学の研究結果で既に結論が出ています。2018年の建築技術1月号でもその記事が書かれています。端的にまとめると床下結露に関しては1年目に関してのみ床断熱が有利、2年目以降は生涯に渡って基礎断熱が有利になります。これは最初の1年目に1トンを超える量の水分が基礎から発生するからです。
これも一概に「これが良い」とは言いにくい項目です。断熱材を評価するにあたって一番大事なのは断熱性能当たりの価格であると個人的には考えています。しかし、それ以外にも、施工のしやすさ、内部結露のしにくさ、燃えたときの有害物質の出にくさ、製造時及び廃棄時の環境負荷、厚さ当たりの断熱性能等様々な評価項目があります。これら全てを満たす断熱材など存在しません。要するに何を重視するかで答えは変わります。ただ、ここで回答を終えると結局何も分からないということになると思います。そこで重視する項目に応じておすすめを紹介しておこうと思います。
・とにかく材料費を押さえたい → 高性能グラスウール16K
・材料費も押さえたいが、大工手間を少なくしたい。工程も短くしたい → 100倍現場発泡
・上記に加えて、できるだけ自然素材系にしたい → セルロースファイバー
・土地面積が狭く、壁の断熱を厚くする敷地的余裕がない。もしくは斜線制限が厳しく屋根もしくは天井の断熱材を厚くすることができない → フェノールホーム(商品名だとネオマフォーム、フェノバボード)
・基礎内断熱及び床断熱の断熱材 → 板状の断熱材では一般的かつ費用対効果も高い押出法ポリスチレンフォーム
・費用対効果に優れた外付加断熱にしたい → ビーズ法ポリスチレンフォーム(発泡スチロール)
これも様々な研究、及び実棟による実測から明らかになっています。結論から言うと次世代省エネ基準以上の住宅においてはほぼ全く効果が無いということになります。強いて言うなら、極めて断熱性能が低い住宅の夏においてのみ効果があります。
なぜだか分かりませんが、プロも一般人も遮熱や蓄熱という言葉は好きな方が多いです。しかしながら、木造高断熱住宅においては遮熱も蓄熱も、暖かさ、涼しさ、冷暖房費の全面において非常に効果は小さいものがあります。蓄熱を重視するのはQ値1を切ってからで十分だと考えています。
かなりの断熱性、気密性かつ床下エアコン等の総合的な暖房システムが両立している場合に限っては問題ありません。しかしながら、新築住宅においてこれらが両立している住宅は現状では10%に満たないと思われます。しかしながら、吹抜けやリビング階段の採用率は両方合わせて考えると50%を超えると思われます。主婦の間で友人が新築する時に「リビング階段と吹抜けだけは絶対やめといたほうがいいわよ」と都市伝説の如く広がっているのはそれだけ失敗した方が多いという何よりの証拠です。
日本人がそう思い込む理由は単純に、日本の住宅の断熱性能、気密性能が低かったからに他なりません。具体的に挙げていくと、3つの理由があります。
1.断熱性能の低さ
断熱性能が低いと、窓を中心にコールドドラフトと呼ばれる現象が起こります。これは暖かい空気が冷たい窓等に当たると冷やされて重くなって下に下がる気流が起こる現象です。下がって行き場のなくなった冷気は床を這うように動くため、足元が寒くてたまらなくなるわけです。
2.気密性能の低さ
気密性能が低い住宅では暖房が効きにくいので設定温度を高めに設定します。しかし、暖気は上に上がろうとする力が極めて強いので上にある“隙間”からどんどん抜けていきます。それと同時に下から冷気が吸い込まれるという悪循環が起こっています。
3.複合フローリング
大半の新築住宅で表面をウレタン塗膜で塗り固められた複合フローリングが使われています。ウレタン塗膜は木そのものよりも触ったときの感触がかなり冷たく感じられます。
これら3つが揃った結果「床が冷たい」となり、それを解消するには「床暖房」というのが今までの住宅業界の誤った常識でした。
原因が分かれば対策は簡単です。窓を中心とした断熱性を高め、気密性能を高くし、ウレタン塗膜を使わない無垢のフローリング、もしくはカーペット等を使えば床暖房などなくても十分に暖かいのです。さらに理想を言うのであれば、床下エアコン等を組み合わせると、床が一番暖かくなる住宅にすることも可能です。
ちなみに、私の15年、200棟以上の経験上、断熱性能、気密性能が高い住宅でも床温度が21℃を超えてこないと真の満足度は得にくいということがあります。
エアコン暖房が苦手な3つの理由と誤解
エアコン暖房が苦手という方は断熱性が低い住宅での猛烈な温風にさらされるエアコン暖房しか体験していません。このような住宅ではいくらエアコン暖房を強くしてもそもそも理想的な暖かさには至りません。先にも説明したように暖気は上部ばかりを暖め、さらには外に抜けていきます。最も寒さを感じやすい足元が暖かくなることはありません。
しかもエアコンは灯油やガスのファンヒーターが高温低風量なのに対し、低温大風量で熱を運んでいます。寒い家では高温でないと暖かさを感じられません。これが不快に感じさせる一つ目の理由です。しかし、高断熱住宅になれば、そもそもそれほど強く温風をふかずとも、また温風の温度がそれほど高くなくても十分に暖かさを感じることが可能になります。
二つ目。エアコンは天井から吹き出し、ファンヒーターは床ギリギリから吹き出します。足元が暖かくないと人間は暖かさを感じにくいという性質を持っています。この問題は床下エアコン暖房、もしくは床置型のエアコンを使うことで解消できます。
三つ目、「エアコンの空気は乾燥している」というちょっとした誤解です。これはそもそも部屋の空気が乾燥しているのであって、エアコンからの空気だけが乾燥しているわけではありません。しかしながら、ガスや灯油のファンヒーターに比べると確実に乾燥しています。なぜならガスや灯油が燃焼するとは次のような化学反応だからです。
CHO+O2=CO2+H2O+熱
すなわち、灯油にしてもガスにしてもファンヒーターは「加湿空気汚染機能付き暖房機」だということができます。だからファンヒーターの上部には必ず「1時間に1~2回換気して下さい」というシールが貼られているわけです。例えるなら煙突のないファンヒーターは家の中で窓を締め切ったまま焚き木をしているのとたいして変わらない蛮行なのです。
この問題に関しては単純に加湿器を併用すれば済みます。こうすれば熱と水分だけを得ることができ、不要なCO2を発生させずに済みます。
エアコン冷房が苦手な理由と誤解
エアコン冷房が苦手な人の多くは「風が嫌だ」「電気代が気になる」と言います。これも暖房と同じで断熱性、気密性さらには日射遮蔽がきちんとされていない住宅でエアコンをフル稼働させないと涼しくならない経験をしているからと言えます。日射遮蔽をきちんとせず窓の遮熱性能にも気を使っていない住宅の場合、真夏の日中リビングの南向きの窓1つでコタツ1台分程度の熱量を家の中に取り込んでいます。窓際からコタツの暖気を受けてエアコンからフル稼働の冷気を受けていれば体調が悪くなるのは当たり前です。熱いのか寒いのか脳みそが混乱して体温調節ができず、とても不快に感じます。
まずはコタツを切る(=日射遮蔽をする)ことでエアコンの稼働はグッと抑えられます。さらに断熱性、気密性の高い住宅なら少しのエアコン稼働で涼しくなった室内の温度を保つことができ、冷風を感じることも無駄なエアコン代を払う必要もなくなります。
この表は同じ1kWhの熱を得るのに暖房費がいくらかかるかを比較したものです。実効COPというのは消費電力の何倍の熱を引っ張ってこれるかというエアコンの実燃費を表す指標です。カタログ値では最新型のエアコンのCOPは7を超えるものまで出てきています。しかしながら、車同様、実際の燃費はそれよりもかなり下回ります。
エアコンは部屋に適切な容量選定ができているかどうか?運転方法によって実燃費が車以上に強烈に変動します。しかしながら、この上手なエアコンの運用まで辿りついている実務者は0.1%くらいしかいないと思われます。大半の実務者が実効COP=2のあたりで稼働させています。松尾設計室では4程度で動くよう最善の努力をした上で、大半の時間を深夜電力の時間帯に使います。その結果、他の暖房方式に比べて、圧倒的に安い暖房単価を実現することができています。
当然ながらほとんどの人がこのように考えています。しかし、木造住宅の世界ではこれは明確に間違えています。答えは2階建て住宅が一番危ないのです。
通常このような問題で中間値が答えとなることはまずないので、疑問に感じると思います。理由は簡単です。「3階建ては構造的に一番弱いから許容応力度計算が義務付けられている。2階建て以下は簡易計算でOK」だからです。そうすると、残るのは平屋建てと2階建てとなり、この2つを比べると当然ながら2階建ての方が危ないのは当たり前の話です。
2012年に芝浦工業大学の〇〇研究室がプレカット工場(構造材を工務店から頼まれて仕口を加工する工場)から任意抽出で100物件の2階建住宅を許容応力度計算にかけました。その結果は100%の確率でエラーが出たというものでした。簡易計算の建物はやはり非常に危ない箇所が必ず残っているということです。実際、簡易計算で行うことを簡単に説明しておきます。
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- ・地震に耐えられるよう縦方向、横方向それぞれの壁の量を計算する
- ・地震に耐えられるよう壁がバランスよく配置されているかどうか計算する
- ・風に耐えられるよう縦方向、横方向それぞれの壁の量を計算する
- ・風に耐えられるよう壁がバランスよく配置されているかどうか計算する
以上です。実際手計算でA3用紙1枚に1時間以内に計算が終わります。柱一本毎にかかる力、梁にかかる荷重などは「一切」計算しません!!
それに対して許容応力度計算では入力だけでも最低5時間以上かかります。最後にエンターキーを押したら最新型のパソコンでも15秒は考える、計算量でA4用紙なら250枚程度にもなります。柱、梁の荷重、地震力、耐風力まで全て計算するからです。
2階建て住宅が構造的に一番危ない、と冒頭で断言しましたが、許容応力度計算をした上で耐震等級3を満たした住宅であればその限りではありません。危ないのは、許容応力度計算をしていない2階建て住宅です。
そもそも制震ダンパーをつける意味があるのは耐震等級3を超えてからの話です。当社が使っている制震ダンパーメーカーのエンジニア自身が「耐震等級2とか1の住宅で制震ダンパーを求めてくるんですが、その前に許容応力度計算をして耐震等級3を確保してからにしてほしいんですけどね」と嘆くくらいです。
制震ダンパーはお施主様に対して受けがよく、かつ設計も施工も簡単です。だから業者は安易に飛びつきます。しかし、それ以前にはるかに重要なのは許容応力度計算をして耐震等級3を確保することです。これは設計面で非常に難しく、かつ手間がかかる。さらに地味・・・ということから業者側からは嫌われます。しかしながら、そういうことにこそ本当に重要な意味があるというのは断熱、気密と同じ理屈です。
許容応力度計算もせずに制震ダンパーに走るのは断熱の世界でいうところ「裸にカイロを貼るようなもの」(やる順番を完全に間違えていることのたとえ)です。
考え方によります。こういった制度の場合、10年目にかなり大掛かりなメンテナンスを行い、かなりの費用発生が条件となっている場合がほとんどだからです。あまりにも高すぎて「そんなに高いなら結構です」と断る方が非常に多いということも知っておいて損はないと思います。